うつ病の回復は、意外なサインから始まる。小さな変化に気づき、希望を見つけるヒント
「うつ病かも?」と感じ始めた方、あるいは診断を受けて間もない方の中には、「回復っていつから始まるんだろう」「回復するためには、何をすればいいんだろう」と漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
心の不調やうつ病からの回復は、急にすべてが良くなる、といった劇的な変化として訪れることばかりではありません。むしろ、自分自身でも気づかないような、とても小さな、ささやかな変化から始まることが多いと言われています。
今回は、回復の「始まり」に気づくためのヒントと、その小さなサインを大切にすることの意味についてお話ししたいと思います。
回復の「小さなサイン」とは?
「回復」と聞くと、「朝ベッドからすぐに起きられるようになる」「以前のようにバリバリ働けるようになる」といった大きな変化をイメージされるかもしれません。もちろん、それらも回復の大きな目標になることですが、回復の過程では、もっとずっと小さな、日常生活の中での変化が現れることがあります。
例えば、以下のようなことは、回復の「小さなサイン」かもしれません。
- ほんの一瞬、心に穏やかさや余裕を感じる時間があった
- 以前は常に緊張していたり、漠然とした不安に追われていたのが、ほんの短い時間でも心が落ち着く瞬間があった。
- 外の空気や季節の変化に、少しだけ目が向いた
- これまで何も感じなかったのに、窓の外の光や風、通りすがりの花の香りに一瞬だけ気づくことができた。
- 身だしなみに少しだけ気を遣ってみようと思えた
- 顔を洗う、髪をとかすといった、以前は億劫で仕方なかった行為を、少しだけやってみようかなと感じた。
- 特定の食べ物を、少しだけ美味しいと感じた
- 何を食べても味気なく感じていたのが、ふと口にしたものの味を少しだけ感じられた。
- 一日の終わりに「今日はこれだけはできた」と思えることを見つけられた
- 大きなことは何もできなかったとしても、「歯磨きはできた」「水を一杯飲んだ」など、何か一つでもできたことを見つけられた。
- ほんの短い時間でも、誰かの声を聞きたい、あるいは誰かに話したいと思えた
- 孤独感でいっぱいで誰とも関わりたくなかった気持ちに、少しだけ変化があった。
- 眠りにつくまでの時間が、少しだけ短くなった、あるいは朝の倦怠感がほんの少し軽くなった
- 睡眠に関するつらさが、ほんのわずかでも和らいだ。
これらの変化は、とても小さく、見過ごしてしまいがちなものです。しかし、これらは「以前とは違う状態に向かっているかもしれない」という、大切な兆しなのです。
小さなサインにどう気づく?
つらい気持ちの中にいるときは、ネガティブな側面にばかり目がいきがちです。「今日も何もできなかった」「まだこんなにつらい」と、自分を責めてしまうことも多いかもしれません。
回復の小さなサインに気づくためには、まず「大きな変化だけが回復ではない」という視点を持つことが大切です。そして、完璧にできなくても大丈夫、という気持ちで、自分自身の心と体の声に耳を傾けてみてください。
- 「できたこと」に目を向ける練習
- 一日の終わりに、たとえどんなに小さなことでも「今日できたこと」を心の中で数えてみる。リストにする必要はありません。ただ、意識を向けるだけでも大丈夫です。
- 自分を観察する
- 日記やメモをつけることに抵抗がなければ、その日の気分や、何か少しでも変化があったことを書き留めてみるのも一つの方法です。「今日はなんとなく空の色がきれいだと思った」というような些細なことでも構いません。
- 「波がある」ことを受け入れる
- 小さな良い変化に気づいた翌日に、また落ち込んでしまうこともあるかもしれません。それは自然なことです。回復は一直線ではなく、良くなったり、またつらくなったりを繰り返しながら進んでいきます。ネガティブな変化があったとしても、小さなサインを見つけられたという経験は消えるわけではありません。
小さなサインを大切にすることの意味
回復の小さなサインに気づき、それを大切にすることには、いくつかの意味があります。
それは、まず「自分は回復に向かっているのかもしれない」という希望を感じることにつながります。つらい状況の真っただ中にいると、この先どうなるのか、ずっとこのままなのか、と不安になることがあります。そんな時に、小さなサインを見つけられると、「大丈夫、少しずつでも変化はあるんだ」と、未来への希望を持つことができるのです。
また、小さなサインに気づくことは、自分自身の努力や、心と体が頑張っていることへの肯定にもつながります。「こんな小さなこと」と思わずに、「これだけでもできた」「これを感じられるようになった」と自分自身を認めてあげることで、少しずつ自己肯定感を取り戻していくきっかけになります。
回復の道は、人それぞれ違い、時間もかかります。焦る必要は全くありません。今日、何か一つでも「いつもと少し違うな」「これだけはできたな」と感じられる小さなサインが見つかったなら、それは自分自身を大切にする第一歩です。
一人で抱え込まずに
つらい気持ちや不安を一人で抱え込まず、誰かに話してみることも、小さな変化に気づくきっかけになることがあります。家族や友人、あるいは専門家など、話せる相手がいると、自分の状況を客観的に見つめ直すことができたり、自分では気づけなかった変化を指摘してもらえることもあります。
この「みんなの回復ノート」も、皆さんが一人ではないと感じられる場所でありたいと願っています。他の経験者の話に触れることで、「自分だけじゃないんだ」「こんな小さな変化でもいいんだ」と感じていただけるかもしれません。
回復の道のりは、決して楽なことばかりではないかもしれません。ですが、その道には、自分自身を深く知り、大切にしていくための大切な気づきがたくさんあります。焦らず、小さなサインを見つけながら、一歩ずつ、自分自身のペースで進んでいきましょう。