うつ病の回復は、一直線じゃない。ゆっくりと変化に気づくことの大切さ
はじめに
「うつ病かもしれない」と感じていたり、診断を受けたばかりだったりする中で、今後のことが分からず、不安な気持ちで過ごされている方もいらっしゃるかもしれません。
少し気分が上向いたと思ったら、また落ち込んでしまったり、何もする気になれなくなったり。「このまま良くならないのかもしれない」と、先の見えないトンネルの中にいるように感じてしまうこともあるかもしれません。
うつ病からの回復は、多くの場合、一直線に進むものではありません。今回は、回復の過程で起こりうる「波」について、そしてその中で焦らず、小さな変化に目を向けることの大切さについてお伝えしたいと思います。
回復は「波」があるのが自然なこと
うつ病の回復は、例えるなら、穏やかな海のようなものではなく、時々波が立つ海のようなものかもしれません。良い日もあれば、そうでない日もある。気分が比較的安定している時期があっても、何かをきっかけに、あるいは特別な理由がなくても、また落ち込みを感じる時期がくることがあります。
これは、回復が順調に進んでいないわけでも、あなたが「頑張りが足りない」わけでもありません。うつ病という病気は、心のエネルギーがうまく使えなくなったり、感情のバランスが崩れやすくなったりする状態です。そのバランスが整っていく過程では、どうしても揺り戻しのようなものが起こりやすいと考えられています。
良くなったり、また少ししんどくなったりを繰り返しながら、全体としては少しずつ、ゆっくりと上向きに進んでいく。これが、多くの方が経験する回復の道のりです。
焦らないことの大切さ
回復に波があることを知らないと、少しでも後退したように感じると、「もうダメだ」「自分は一生このままなのではないか」と絶望的な気持ちになってしまうことがあります。そして、「早く良くならなければ」と焦る気持ちが生まれるかもしれません。
しかし、焦りは、かえって心に負担をかけてしまうことがあります。無理に元気になろうとしたり、落ち込んだ自分を責めたりすることは、回復に必要なエネルギーを奪ってしまうことにもつながりかねません。
回復には時間がかかりますし、そのペースは人それぞれです。他の人と比べたり、過去の元気だった自分と比べたりする必要はありません。今の自分自身の状態を認め、「今はこういう波の中にいるのかもしれないな」と、少し距離を置いて見つめてみることも大切です。
小さな変化に目を向けてみましょう
波のある回復の道のりの中で、希望を見失わないためにできることの一つに、「小さな変化に目を向ける」ということがあります。
劇的に気分が変わったり、急に元気になったりすることは少ないかもしれません。しかし、よく観察してみると、ほんの些細なところで、以前と違うことがあるかもしれません。
- 朝、少しだけ早く目が覚めた
- カーテンを開けて、外の光を見た
- 歯磨きをきちんとできた
- 好きな音楽を数分だけ聴いた
- 温かい飲み物をゆっくり飲んだ
- 短い文章でも本を読んだ
- 部屋のゴミを一つだけ拾った
- 誰かに短いメッセージを送った
こうした小さな変化は、意識しないと見過ごしてしまいがちです。でも、これらは回復に向かうための、確かに存在する「一歩」なのです。ネガティブな変化だけでなく、ポジティブな小さな変化にも意識を向ける練習をしてみましょう。ノートに書き出してみるのも良いかもしれません。
「何もできていない」と感じる日でも、「息をしている」「生きている」ということ自体が、回復への土台であり、大切なことです。自分を責めずに、今日できた小さなこと、感じた小さな良いことに目を向けてみてください。
自分に優しくあること
回復の過程では、頑張りすぎず、自分に優しくあることが何よりも大切です。
完璧を目指さなくて良いのです。しんどいと感じるときは、無理をせず休むことを自分に許してください。休息は、回復のために必要不可欠な時間です。
信頼できる家族や友人、医療機関のスタッフ、相談窓口など、誰かに話を聞いてもらうことも、一人で抱え込まずに波を乗り越える助けになります。インターネット上のコミュニティなどで、同じような経験を持つ人の話に触れることも、孤独感を和らげ、「自分だけではないんだ」という安心感につながるかもしれません。
まとめ
うつ病の回復は、時に波があり、時間がかかるプロセスです。しかし、その波は回復が進んでいる証拠でもあります。
焦らず、自分自身のペースを大切にしてください。そして、毎日の生活の中にある、どんなに小さくても良いので、以前と違う「変化」に目を向けてみてください。そこに、回復への希望の光を見つけられることがあるはずです。
あなたは一人ではありません。ゆっくりと、自分に優しく、回復への道を歩んでいきましょう。